遠い箱

精神障害を持つアラ60のヘンテコな毎日と、日々変化する心情を綴ります。

ひとりじゃないよ。

ずいぶん長い間、消えてしまいたいという思いに支配されていた。

 

全く気力というものがなくて、

自らの力で自らを消すという選択すらできなかったあの頃。

 

こっそり泣いてばかりいたから目をこする機会も多くて、

ものもらいがしょっちゅうできて、眼帯をしていることが多かった。

 

市販の目薬をさしても治らないから、

眼科に行って切ってもらうことが度々あった。

 

眼科にはバスに乗って行く。

小学生の低学年の頃だから、一人ではなく母に連れて行ってもらう。

母は妹にかかりきりで私にはあまり構ってくれなかったから、

こういう時は母を独り占めできて嬉しかった。

 

いつも大人しい私がウキウキしてはしゃぎ気味になる。

心なしか母も、二人きりなら優しいから尚のこと嬉しくなる。

端から見た、そんな私は元気に映ったろう。

 

ある時、同級生のMにその姿を見られた。

Mは勉強もスポーツもできて明るくハキハキした女の子で、

先生からも生徒からも好かれていた。

 

いつも目立たなくて大人しい私の成績がMより良かったことは、

Mにとっては不愉快だったのかも知れない。

Mは私が学校をサボって母親と遊びに行っていたという噂を流した。

更にテストでカンニングしてた、とも。

 

先生は信じなかったが、女の子たちは信じて

私を仲間外れにした。

 

私は一人が好きだったから特に気にならなかったけれど、

体育の時に組む相手がいなくて先生と組むのが少しだけ恥ずかしかった。

 

どこにでも転がっている、よく聞くお話。

 

そうどこにでもある。

消えたい人も大勢いるって、大人になってから知った。

 

消えたい人同士はふとした切っ掛けで出会って、

なかなかに深い話ができる。

 

消えたい人の中には本当に消えてしまう人もいるけれど、

多くが消えずに存在し続ける。

 

Mみたいな人たちよりも、ちょっとだけ生きづらいけれど、

少しずつ生きやすくなる。

 

結婚した私は、意地悪したMと同じ苗字になった。

だから私はあの意地悪なMのことをしょっちゅう思い出す。

そしてMに対してなんの感慨もない自分に気づく。

 

楽しいと思うことが増えて行く。

一緒にいて楽しいと思う人にもけっこう出会える。

 

一人の時間も更に楽しめるようになる。

誰かと居ても楽しいと思えることも増えて行く。

 

生きてて良かったと思ったりもする。

 

長生きがしたいな、なんて思い始めたのは

半世紀以上生きて、ついこの間のお話だ。

 

悲しいことや辛いことは、命を全うするまで続くよ。

だけど、素敵なことの方がきっともっとたくさんある。

 

大丈夫だよ。

ひとりぼっちじゃないから。