遠い箱

精神障害を持つアラ60のヘンテコな毎日と、日々変化する心情を綴ります。

共に白髪になるまで。

珍しく夫が居酒屋に誘った。
ここ一年くらいの間、家でゆっくりと過ごすのを好んでいた夫。
どういった心境の変化で夫が酒場に誘ったかを深く考えもせずに、外食好きの私は単純に大喜びでその誘いに乗った。



就労移行支援でプログラムに参加して、穏やかな気持ちになっていた私は、夫と柔らかい時間を過ごした。



夫も楽しかったのか、居酒屋で飲んでいる最中に「次はスナックに行こう」と言い出した。
夫の誘うそのスナックの客単価は7〜8千円くらいだから、出費を抑えるようにし始めたここ2年くらいの間は顔を出していない。
夫と同年代の元バンドマンでもあるマスターは、創業65年となるこのスナックの婿養子。
音楽好きの夫はこのマスターと音楽の話をしたり、カラオケを歌ったりするのを楽しみにしていて、以前はよく通っていた。



スナックでバーボンのボトルを頼んで、カラオケを入れる。
以前はお酒が強かった夫だが、すぐにグデングデンに酔っ払って満足に歌も歌えない状態になった。





唐突に夫が居酒屋やスナックに誘ったのは、何故なのか考えてみた。
夫は居酒屋で明日、精密検査の結果を聞きに行くと言っていた。
彼は真剣に、アルコール依存症の治療を受ける気持ちになったのかも知れない。





ふらふらと千鳥足で家路をたどる夫の後ろ姿を見て、昨夜は絶望感を味わった。
ぐったりと眠る夫の寝顔を見て、悲しい気分になった。
この人が死んでしまったら、私はとても寂しいだろうと思ったら涙が出て止まらなくなった。





孤独で絶望しかなかった私に、居場所を作ってくれた人。
私は精神病者になってしまったけれど、それでも昔の自分を思い出せば、比較できないほどの幸せがここにはある。





夫が長生きできますように。
アルコール依存症を乗り越えて、二人で一緒に過ごせる日が、これからも長く続きますように。





笑いあったり、喧嘩したりしながら、なんでもない日常を共に過ごせる時間はどれくらいあるのだろう。



もっと夫のことを、彼と過ごす時間を、大切にしようと心から思った日。