遠い箱

精神障害を持つアラ60のヘンテコな毎日と、日々変化する心情を綴ります。

一人の夜の過ごし方。番外編 ⑴

r-elle.hatenablog.com

この記事の続き。
番外編としたのは?



数年ぶりに訪れた「バーノンノン」。
夕食を取り損ねていた私は、まだ若きバーテンダーに夕食を取り損ねた経緯を話していた。
この日の私は「ミロンガ・ヌオーバ 」の後で、すでに二軒の居酒屋にフラれているのだ。
一軒は満席だったから入れなかった人気居酒屋店。
もう一軒は席はガラ空きだったのに、ひとり客と言った途端に断られた人気焼き鳥店。
この焼き鳥屋は○べログの評価が高くて、程なく確実に満席となるだろうから日曜日のひとり客を嫌ったのかも知れぬ。実に腹立たしい。二度と足を運ぶまい。


そして勿論、こちらのバーテンダーは当ホテルの社員である。きっちりとスマートに山の上ホテルのレストランを、実に然りげ無く勧める。
それにしても一人中華は嫌だし、一人鉄板焼きも却下、軽食もちょっと...。


モンカーブは以前、家出して宿泊した際に一人で夕食をとって居心地が悪かったことを思い出す。こちらは団体客が多いのだ。賑やかな店内で、一人食事するのが寂しかったという思い出が強く残っている。


天ぷら...いいなぁ〜いいんだけど、ちょっと予算的にね...せっかく良いものを食す時に、予算を気にしながらでは味気ない。
そしてこちらのフレンチを最後に食べたのは何年前だったか忘れてしまったけれど、なんだか「美味しくなくなったなぁ」という印象が濃い。


そんなんでどうしようか思案中の時に、ひとりの女性客が私の隣の止まり木に腰を掛けた。
その姿を然りげ無く観察する。
『田舎から出て来た四十代前半の主婦』
昨日夫の浮気が発覚して夫婦喧嘩となり、身支度もそこそそ家を飛び出して来た。
家を出た時には行き先は決めていなかったが、夫と仲睦まじかった三十代の頃に夫婦二人で訪れた山の上ホテルに急遽宿泊することにした。
だから今夜は普段着だ。
ホテルのバーで飲むには気がひける服装ではあるが、他に行くあてもない。一人、部屋の中で悶々と過ごすのは辛すぎる。


そんな風情のそのひとり客に、私から声をかけてみる。
「お一人ですか?」
「はい」
「ご宿泊?」
「いいえ」
「あ...ではご近所?」
「いえ、近所ではないのですが、勤務先が近いので」
「ではお仕事の帰り?」
「今日は仕事は休みですが、古本屋巡りをしに神保町まで来たのでその帰りです」
「そうなんですね。私は大福を買いに来たのですが、残念ながら完売して買いそびれてしまったんですよ」
「ここへはよくいらしゃるんですか?」
「いえ、改装してからは初めてです。あなたは?」
「私は今回が初めてです」


あまりバーには慣れていないのだと言うその女性は、まだ三十代前半の独身とのこと。バーに慣れていない上に、ホテルのバーは初めてということで緊張していたのだろうか。その緊張が彼女を随分と老けさせて、心細げな訳ありと感じさせるような心許なさを醸し出していたのかも知れない。単に私の観察眼のなさとも言える。話すうちに三十代らしき若々しさや瑞々しさが、どんどん表出してくる女性だった。


会話が弾んで、実に楽しい。そして「夕食はこれから」という彼女を、先ほど満席でフラれた居酒屋に誘ってみた。喜んで応じてくれた彼女と二人、その居酒屋へ向かった。


2020年2月時点の○べログ評価が、3.67の居酒屋「味噌鐡(カギロイ)」へ。


yumemania.jp


日曜日の21時を回った時間でも1階のカウンター席に空きはなく、2階席へ。

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民家を改造した店内は、今では珍しくはない。


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けれど、お料理がなんとも美味しい。


お通しの胡麻豆腐。
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ツルンとろんとして、素晴らしい舌触り。
口に含むと、胡麻の香りが広がる。


さわらの西京焼き。
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んんん〜♪
大好きな西京焼きの、脂が乗っていて、かつ焼き加減も最高に私好み。

芋豚バラの味噌漬け焼。
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あああ〜♪
この香ばしい味噌と豚の脂の甘みがなんともマッチしていて、普段食べない豚肉の味噌漬け...こんなに美味しいんだ?!


感動は束の間、致し方ないとはいえ、閉店時間を急かす店員に興醒めしつつ、あたふたと店を出る。こちらのお勘定を少し多めに出した私への礼として、彼女が地元の店に私を誘う。


彼女の地元は阿佐ヶ谷。23時過ぎの神保町、これから阿佐ヶ谷へ行ったら終電は間に合わないだろう。
けれど好奇心が先に立って、彼女の誘いを受けた。


彼女の行きつけの店は、女将とその友人男性が二人で営む小さな居酒屋。お通しで出されたきんぴらごぼうが、なんとも美味しい。新ごぼうをささがきにして作ってらっしゃるのだが、こちらの歯ざわりが素晴らしかった。


気持ちよく飲んでお別れしたかったのだけれど、お勘定時に彼女が何としても私を先に帰そうとする。その不自然な行為に違和感があって、嫌な感じが残ってしまった。彼女のは店を出た後で行き場のない私と付き合わされるのを嫌ったのか、それとも彼女の部屋へ初対面の私を連れて帰る羽目になるのを訝しく思ったのか?

その真相は明らかではないけれど、なんとなく馬鹿にされたような気がしてならない。誰がそんな子供じみたことをすると言うのだ? そりゃね、何もないどこかの田舎の片隅とか山中とかならいざ知らず、どこの街にだって、どんな時間だって、一人で時間を潰すことのできない私ではない。彼女をその居酒屋に残して先に店を出てから、遣る瀬無い思いで慣れない阿佐ヶ谷の街を彷徨いていると程なく呼び込みがかかった。


チラシを差し出した手の先には、ちょっとぽっちゃりとした今時の男の子。
「ごめんね、ホストクラブは嫌いなんだ」
と私が断ると、
「ホストじゃなくゲイバーです」
と言う。
「え?ゲイバー?阿佐ヶ谷にゲイバーがあるの?」
「はい」
「ん〜けど、お金ないから」
と言うと、
「初回は二時間千円です」
と言う。
「飲み物は?」
「飲み物は別です」
「うーん...」
迷ったけれど、行くあてもないし、寒いから行ってみることにした。
ガールズバーを改装したという店内はピカピカしていた。


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二時間経って延長するか聞かれたが、断った。若い頃に新宿二丁目と六本木のゲイバーにしか行ったことのない私にはなんだか新しかったけれど、もう来ることはないだろうなと思った。
お祭り騒ぎ的なノリって、流石についていけない年だ。
時刻は午前4時...これまた中途半端な時刻。


お腹が空いて来たので、鳥良に寄って、手羽先とポテトサラダと焼酎を飲んでから、始発で帰った。居酒屋を一緒した女の子にあげてしまった「ささま」の和菓子を、無性に食べたくなった帰り道だった。



そう、一人なようで誰かと一緒した夜に発展したので、番外編。
この次の話も番外編となります。


その前に、ちょっと休憩。
では、また。











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