遠い箱

精神障害を持つアラ60のヘンテコな毎日と、日々変化する心情を綴ります。

昔話。

昨日に引き続き、父の話。


基本的に躾には厳しかった父。
食事時にはテレビを観てはいけなかったし、余計なおしゃべりはしない。
特にお箸の使い方にはうるさくて、お箸の持ち方から惑い箸、渡し箸、逆さ箸、移り箸、刺し箸、寄せ箸、探り箸、箸渡し、指し箸、なぶり箸、銜え箸、握り箸、仏箸、撥ね箸、落とし箸は禁止。
お茶碗やおわん小皿はきちんと左手で持つ。
どんなにお腹がいっぱいで苦しくても残すのは絶対にタブーで、ご飯粒一つも残してはならない。
きちんと正座をして背筋を伸ばし、こぼさないように気をつけて、音を立てずにさっさと食べる。
ご馳走様の後は一休みする前に、自分の使用したお箸とお茶碗を下げて洗う。


洗濯物は必ずたたまなくてはならず、干してそのまま着るなどの横着は以ての外。
水の出しっ放しはいけない、戸は静かにしっかりと閉めて、敷居や畳の縁は踏まない。
帰宅したらさっさと着替え、着替えた服はきちんと仕舞う。
脱いだ靴はきちんと揃え、使い終えたものは元の場所に戻す。
歩くときは姿勢を正し、足早にさっさと歩く。
ぐずぐずしない、要件をはっきり伝える、無駄口を叩かない、大きな音を立てない。
言いつけは守る、嘘はつかない、約束は必ず守る。
長電話禁止、陰口禁止、言い訳禁止、長風呂禁止。
使い終わったものはきちんと片付け、人の話を聞くとき話すときは相手の目を見ること、返事は一度「はい」と。
親の意見に口答えをしてはならない、呼ばれたら即座に返事をして用事を中断してきちんと向き合う。
疲れていてもブスッとせず、常にこやかに、人には親切に、特にお年寄りと小さな子供は大切に。
欲張らない、生意気を言わない、謙虚であれ。


なんだかもっとあったけれど、ちょっと思い出し切れない。


ひたすら厳しいばかりではなくて、いたずらっぽく人を試すようなこともよくした。
例えば、こんなことがあった。
五十円硬貨と百円硬貨を手のひらに乗せて、「どちらか一枚やるぞ、どちらがよい?」と聞く。
若い方はご存知ないだろうが、当時の効果は百円硬貨より五十円硬貨の方が大きかった。

f:id:R_elle:20200711202659j:plain

私が大きい方を指さすと、「お?そっちでいいのか?」と聞く。
頷くと「お前は欲張りだなぁ、大きい方がいいんだな?」と笑うから、こちらも「じゃぁこっち?」と百円玉を指さす。
そこで「舌切り雀」の話をしてくれたりする。


躾には厳しかったけれど、酔った母への対応は恐ろしかったけれど、父はたいていは陽気で機嫌の良い人だった。
幼い頃の休日には、必ずどこかへ遊びに連れて行ってくれた。


鬼のようだと心から憎んでいた時期もあったけれど、それもはるか昔の話。
思い出せば後悔と苦しみしかなかったけれど、今では心が暖かくなる思い出に変わったようだ。
遠い遠い昔話。


昨日から今日にかけて、すっかり父の思い出に浸ってしまった。
父の日を忘れていたからね。


こんな日もあって良いけど、残り時間は限られている。
懐かしんでばかりいられない。
明日からはしっかりと、自分時間をね、今のことをしよう。