遠い箱

すぐには開けない箱があります。 しまって、忘れて、 それでも時々、 そこに在ることを確かめたくなるもの。 「遠い箱」は、 そんな箱を言葉で包み、 静かに置いていく場所です。

それぞれの My Life

就労移行支援事業所の利用を、完全にやめることに決めた。


本来なら10月6日だった心療内科の診察日を、昨日に変更したのは9月25日。
9月24日の事業所の担当スタッフN女史との電話面談で感じた違和感は、時間が経つごとに不安へと変わっていった。


N女史は、私の薬を増やすように主治医を誘導するつもりなのではないか?
このところ起こった様々な出来事はすべて繋がっていて、得体の知れない何かが私を陥れようとしているのではないか?
そんな妄想で、徐々に不安が深まっていく。


このままでは精神的に良いことはない。
そう判断し、心療内科の診察予約を電話で変更した。
N女史立会いの前に、主治医と二人きりで話がしたかったからだ。


主治医は私の現状を丁寧に聞くと、いとも簡単に結論に導く。
「そんなに辛かったら、やめればいいじゃない?」
「え?やめてもいいんですか?」
「僕はもともと言っていたでしょ?あなたに就労移行支援は必要ないって」
「え?けれど先生、私は転職ばかり繰り返してるじゃないですか?」
「いいじゃない?職なんて何回変えても?あなたは一人で仕事を見つけて、大抵のことはなんでもこなせるでしょ?」
「うーん…けれど、もう歳だし、転職もできなくなるんじゃないです?」
「そんなことはないんじゃない?」
「…まぁ選ばなければ、できる仕事はいくらだってありますよね」
「そうでしょ?」
「高望みしなければ、身の丈に合った仕事はいくらでもある」
「その通り」
「そうですね!」
「そう、あなたはそのままでいいの。無理して自分を変える必要なんてない」


いつだってこんな風に肯定感を持たせてくれる主治医に感謝して、診察室を後にした。


頭上には秋の青空が広がり、爽やかな秋の風が吹き抜けていく。
私は数ヶ月ぶりの自由を心から感じた。


気が向いたから東池袋で一旦下車して、池袋に向かってのんびりと歩いた。
季節を味わいながら歩いていると、左手にレトロな喫茶店を見つけた。



茶店のウインドウに、「喫煙目的店」なるステッカーを発見する。
禁煙をやめてからまだ、外出先での喫煙はしていない。
煙草やライターは持ち歩いているのだけれど、機会が訪れなかった。
なんとも好みの古めかしい外観にも心惹かれて、迷うことなくそのドアを押した。



ドアの向こうは、ザ・昭和な空間。
「煙草を吸えるんですか?」
そう尋ねると、年配の女性はさらりと「ああ、煙草は2階ね」と答えた。



少し急な階段を登ると、時とヤニが積み重なる、時間が止まったような、セピア色の世界が広がっていた。


大きな窓の向こうには、めまぐるしく開発が進む東池袋が見える。



モーニングは飲み物にプラス150円で、トーストとゆで卵がつくらしい。
なんともお得♪



他のメニューはこんな感じ。
アメリカンセットとナポリタンに惹かれるけれど、残念ながらお腹が空いていなかった。


オーダーを取りにいらした初老の紳士に珈琲だけ注文すると、
「これやってみてください。サンプルで煙草を差し上げますよ」
と一言残して、静かに去っていった。



早速、試してみる。
簡単なアンケートの後に映し出された画面を、オーダーした珈琲を運んできたウエイトレスに見せた。
するとすぐにサンプルを持ってきてくださった。



「キャメル・ボックス」は購入すれば、400円。
こちらの珈琲は一杯420円。
実質20円で美味しい珈琲をいただいたことになる。
お得感が半端ではない。



のんびりと煙草を薫せ、美味しい珈琲をいただく。
誰にも邪魔されない贅沢なひととき。
限りない自由を感じて、幸せで一杯になった。
この一年間を少しだけ思って、なにものにも縛られないことがこれほど素晴らしいのだと知る。


私は私のまま。
その時々に感じるまま。
心のまま素直に、正直に生きていけばいい。


心に逆らって、しなければならないことを、ストレスを溜めながら、苦しみながら続けることはないのだ。
自由に心の向くまま、感じる方向へ。
それが私の生き方、人にはそれぞれの My Life がある。