遠い箱

精神障害を持つアラ60のヘンテコな毎日と、日々変化する心情を綴ります。

そうだったんだ。

最初の結婚にケリをつけて初めて就職した企業は、
なかなかにブラックでワーカーホリックに陥った私の平均睡眠時間は1日2時間程度だった。
幻覚妄想が起きて、初めて精神病院へ入院することとなる。


その企業は小さな広告代理店で、私がしていたのは企画営業。
クライアントはレコード会社だった。
音楽好きの私は、レコード会社の若いプロモーターたちと、純粋に音楽の話をするのが楽しくて仕方なかった。
若いプロモーターたちは誰もが有名大学を卒業している人たちで、学歴詐称していなければ入社できなかった小さな広告代理店で働く私には別世界の人たちでもあった。
時代の最前線でワクワクキラキラしている彼らは、眩しくもあった。
少しずつ中堅の音楽業界のプロの人たちと接する機会が増えるようになって、大好きな音楽が経済化される裏側を垣間見た私は、音楽に不純性を感じるようになっていった。


精神病院退院後、仕事を失った私に、今は大手になったとあるプロダクションの社員からマネージャーをやってみないかと誘いを受けた。
音楽に不純性を感じていた当時の私は、その誘いを断った。


今の夫と出会うまで、私は音楽を一切聞かなくなっていた。
どんな時も音楽を聞いていた私の耳から、ヘッドフォンが消えた時代。


音楽好きの夫と出会って、私は再び音楽を聞くようになった。
音楽業界の裏側なんて私には関係のない世界に戻って、私は音を純粋に楽しめるようになっていった。


音楽を再び聞かなくなってから、音楽を聞く夫の流れくる音が不快で、耳栓をするようになった。
夜中であれば、イヤホンで聞いて欲しいとお願いもした。


午前3時頃に帰宅した夫の物音で目が覚めた私は、キッチンの換気扇付近でタバコを吸っている夫に「Tはやめたよ」と話した。
「ふーん」と夫。
「けど、お釈迦様のことは信じる」
「うん?」
「いろんなところにお釈迦様の教えが転がってると思うんだよね、これからはそれを拾い集めるんだぁ」
「うん」


のんびりとした顔つきでチビリチビリと日本酒を飲む夫の横で、私はタバコを一本吹かす。
静かな時間が流れていく。


少し経って夫が、iPhoneで音楽を鳴らし始めた。

「これ、いい詩なんだよなぁ」
聴きながら涙がポロポロ流れた。




あの娘の神様


“ あの娘は僕より 信じられるものを
見つけたらしい 秋が深まるころ
僕は今までと ほとんど変わらない
毎日の中で 君の神様を恨むよ

心の隙間を埋めてくれるものは
君の笑顔だったのに
心の隙間が君にもあったなんて
僕は情けない奴だな

宗教は君に何を与える
しらけた僕は恋人をうばわれただけ

心の隙間を埋めてくれるものは
君の笑顔だったのに
心の隙間が君にもあったなんて
僕は情けない奴だな

宗教は君に何を与える
何をうばったか気にも止めないほど

僕はあいにく 光感じない
毎日の中で 君の神様を恨むよ
君の感性を恨むよ
君の教祖様を恨むよ
この世の奇跡を恨むよ ”




今日の朝ソングは、
「あの娘の神様」


感じていた夫の不機嫌やイライラは、
私へ向けられていたのではなかったらしい。


調子に乗って聞いてみた。
「あれかな?私が美味しいって言いながら、笑顔で食べてると嬉しい?」
「それはそうだろ?」
「だよね?美味しいって思って食べた方が絶対に幸せだよね?」
「…」

私の「絶対」には無言の夫を深追いはせずに、キッチンから出た。
人はそれぞれ違う意見を持っていて、自分だけの意見が正しいわけじゃない。
聞いてしまうと口論になるのは、互いに意見を押し付けあっているからだ。


上手く聞き流せない私たち夫婦は、こうゆうときは少し離れれば良いだけのこと。


別の部屋で互いの存在を少しだけ感じながら、それぞれのことをする。
ただそれだけのこと。




今日は連休最終日。
何か予定はある?
特に予定のない私は、気ままに気分の赴くままにのんびりと休日を楽しもう。





お仕事する人も、
お出かける人も、
お部屋で過ごす人も、



今日の一日へ



行ってらっしゃい。





行ってきます。