遠い箱

精神障害を持つアラ60のヘンテコな毎日と、日々変化する心情を綴ります。

秋の空。

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久方ぶりに空の写真を撮ってみた。
この秋の空は、昨夜から続くぼんやりした気分に、一日の始まりを教えてくれた。


私は昔、手紙を書くのが好きだった。
文具店で見つけるお気に入りのレターセットを、空き箱を利用した通称手紙ボックスにせっせと溜め込んでいた。
メールが普及して手紙を書く機会が激減した今、この手紙ボックスは書棚の奥にしまいこまれて埃を被っている。

昨日、弁護士に郵送する書類を入れる封筒を用意するために、久しぶり開いた手紙ボックスの中に懐かしい手紙を見つけた。
20年前に他界したYukiちゃんからの数通の手紙だ。


飛び降り自殺をした彼女は当時、東京を離れて北海道の実家で暮らしていた。
生まれて初めて心から愛した男性が突然病死した事実を受け入れられなかった彼女は、思いつめて思いつめてあの頃、精神を病んでいたようだ。
北海道の心療内科に通う彼女から初めて届いた手紙には、両親との暮らしにくさが垣間見える。


自分の娘が自殺に至った責任を、掛かっていた担当医に求めた彼女の母親に、その証拠を得るため私宛ての手紙を貸して欲しいと頼まれた時に断ることができなかった。
私からYukiちゃんに宛てた手紙もすべて読んだと平然と言ってのけるその人に、私たちの間に交わされた二人だけの秘密など、ないも同然だった。
亡き娘のために裁判に臨むのだと意気込むその人の矛盾に抵抗を覚えた私は、大切な手紙を預けたままその人との連絡を絶ってしまった。


手紙はすべて預けたままと思い込んでいた私だが、あの人が不要と判断した数通の手紙だけを私に返してくれたのを思い出した。
かつてYukiちゃんの物であった美しい着物を身につけた姿で年甲斐もなくはしゃいでいるあの人から、その手紙を手渡された風景が鮮明に蘇る。
同時に東京の大学に入学した長男のアパートへ泊まっているというあの人から、「会いたい」という電話を受けた時のことも思い出された。


手紙ボックスの中に、Yukiちゃんの手紙と一緒にしまいこまれた、あの人から届いた一枚のハガキを見つけた。
読み返してみて、まさにあの人が書きそうな文面に、思わずため息が出る。


Yukiちゃんの手紙を私の元に戻したいと書いたハガキは、昨夜のうちにポストへ投函した。
一晩置いて冷静になってしまったら、投函を躊躇ってしまいそうな気がしたから。


果たして投函したハガキは、あの人に届くのだろうか?
20年経った今も、Yukiちゃんの手紙はあの人の元で保管されているのだろうか?


Yukiちゃんの手紙は私の元に帰ってくるのかな?



気がつけば、すっかり秋の気配。
いつだってバタバタと、時だけが過ぎていく。



大切なものを置き去りにしていることに、不意に気づく。


季節はどんなに巡っても、空は変わらずそこにあって、大切なことを私に教えてくれる。